あれは、私が小学校の低学年の頃だった。 母方の祖父に連れられて動物園に行ったときのことである。 その動物園には、園内に小さな遊園地があり、動物たちを一通り見終わった祖父と私はその遊園地で遊ぶことにしたのである。 基本的に遠慮がちな子供だった私は祖父に連れられるままにミラーハウスやら射的やら、いろいろと遊んでいたのだが、子供心にどうしても乗ってみたい乗り物があった。 それがゴーカートである。 むろん本格的なものではなく、百円玉を入れるとサークルのなかを自由に走り回れるといったもの。 スピードなどは期待するべくもない。 それでも、自分で操作して自由に動かせるということにひどく魅力を感じたわたしは、その日はじめて自分から祖父にねだったのである。 祖父は疲れていたのか他に理由があるのかやや渋った顔をしたあと百円玉をにぎらせてくれた。 そして私は、そのゴーカートの乗り場(サークルの中に適当に放置されてある)に入り、たまたま余っていたカートに乗り込んだのである。 ところが、どうやらそれは故障していたらしく、他のカートに比べてまったくスピードが出ない。 のろのろとしか進まなかったのである。軽快に走る周囲のカートに悔しさを感じながらも、せっかく祖父にねだって乗り込んだのだからと楽しもうとしていたのだが、どこにでも悪ガキというものはいるらしく、私のカートにぶつけてくる子供がいたのである。 うしろからドンドンと突いてくる。 わたしは泣きたくなって、まだ百円分を乗り切っていないカートを乗り捨てて祖父のもとに戻った。 それはあまり楽しい思い出ではないのだが、ふと今思い出すと、あの悪ガキだと思っていた子は、なにも私にイジワルしようとしていたのではなく、のろのろとしか走れない私のカートを後ろから押してやろうと考えていたのかもしれない。そんなふうにも思えてくるのである。